その後は慌ただしかった。
家に帰り急いでシャワーをあび服をきて家を出た。いつも仕事では、ほぼノーメイクなのが救いだ。
始業数分前に慌てて職場に駆け込み、タイムカードを押した。
周りもそれぞれ気だるそうな顔で、昨日の飲み会での盛り上がりを物語っていた。
さらに、それに拍車をかけ、本日のメインは肉体労働だった。
もはや半死状態で作業をする我々。
昼休憩の頃には暑さもあいまってぐったりだった。
「昨日あのあとどうしたの、大丈夫だった?」
お昼の買い出しの車の中、ふと話題がふられた。
一瞬、思わず言葉につまったが、佐藤くんが、
「俺は帰れなくて満喫ですごしました」
「えー大丈夫だったの?ていうか今も大丈夫?」
「いやもうだいぶよくなってきたけど、やばかったです」
我ながら下手くそ、と思いながらその後は平静を装い会話に混ざっていた。
その日はそんなわけで、皆様生ける屍モードで仕事にならず、定時にはほとんど上がっていた。
この日、彼氏との別れ話を予定していた私もすぐに帰宅する準備をしていた。
もう、一度仕事が終わらずキャンセルしていたので今回ばかりはいかねばならかった。
そんな視界の端で、佐藤くんが仕事を頼まれているのを見つけてしまった。しかも、時間と手間のかかる仕事。
喉元まででかかった、お疲れ様ですのおの文字を飲み込み、代わりに声をかけた。
「…手伝おうか?」
甘いと思われるかもしれないが、この仕事は誰でもできる、でも単純に作業が追いつかないだけの仕事で、頼みやすい佐藤くんがたまたま頼まれたのだ。
なので、若手としてそれを見過ごして帰るわけにはいかなかったのだ、立場的に。
何時でもいいって、言っちゃったんだよな…
結局、待ち合わせ時間になっても終わらずにいた。
「ねーこのあとご飯いこうよ」
お駄賃のアイスを食べる私に、佐藤くんが話しかけた。
ちなみにアイスは二本めで、佐藤くんから横流しされた分だ。
「ごめん、ちょっと今日はいけない」
「え、ごめん予定あったの?」
「あったというか、いきたくないっていうか…」
「なにかあんの?」
「いや…」
楽しい話題ではないし、わざわざプライベートな話をしなくても、という気持ちと、
今別れると、まるで心変わりしたみたいで嫌だな、という気持ちとで口ごもってしまった。
「まあ、いいけど」
特に興味もなさそうに、さらりと佐藤くんは話題を変えた。
私もそれに便乗しながら、この後の憂鬱な予定のことを考えていた。
そして、
2時間ほど遅れて始まった話は、わずか30分で終わる。
付き合い方もあっさりしていれば、別れ話もそうなのだろう。
正直、ほっとした気持ちが一番大きかった。
結局、その彼氏は、私の何が良かったんだろうとぼんやり考えていた。
そんなことすら、私は知らなかったのだ。
ただ、ここで一つの区切りがついたのは確かだった。