29歳現役おひとり様。

29年間のあれやこれや

出会い。

4月になり、新年度を迎え、異動し新しい職場へと赴任した。



根暗で人見知りで社交的の反対側にいる私にとって、新しい人間関係の始まるこの瞬間が大嫌いだった。



緊張しながら通された部屋には、同じく新年度に着任された方々が既に座っていた。


軽く挨拶して私も座り、用意されていた書類に目を通したり記入したりしていた。




隣の方が、座っていてもわかるほどの体の大きさだったので思わずちらりと見る。書類に書いてあるのは、知った名前だった。



異動前、同じ場所に行くやばいやつがいるぞと随分な悪評を聞いていた方だった。

一年毎に異動のある職種なのだが、ちょうど昨年度の職場に、私と入れ替わりでいたらしい。



単純に興味があったのと、黙っているのが耐えられなくなったのとで、私は噂の彼に話しかけた。




「佐藤さん、〇〇にいましたか。私、去年いたんです」




ゆっくりとこちらを向いた彼と目があう。意志の強そうな、真っ直ぐな瞳。





「ええ、そうなんですか。」




「茂木さんから、佐藤くんがいるんだよって教えてもらっていたので、隣見てそうかなって」





「私、違うところでも一緒だったから仲良いんですよ。」






すると、前に座っていた方も同じところにいたことがあるらしく、3人でしばらく共通項を探しながら話に花を咲かせていた。





会話をした印象は、爽やかな好青年で、色々言われていたようなやばいやつのイメージにはほど遠かった。





仕事が始まってみると、席も近く話す機会がとても多かった。というか、彼はとても馴れ馴れしかった。





同い年ということもあり、いつの間にか彼は私をちえちゃんと下の名前で呼んでいた。

私は佐藤くんと呼んでいた。


それでも、なんとなく人見知りで遠慮もあり、敬語も抜けず距離を持つ私に対し、佐藤くんはそれを許さない間合いだった。



別に私が特別なわけではなくて、本当に誰に対してもぐいぐいといく。



知り合って1週間満たない人間とそこまで気軽に話せないよ、緊張するし…




的なことをふわっと言うと、佐藤くんは




「別に相手がどう思うかとか考えずに話しかけるよ。むしろ、話しかけて返せない人がいても、落ち込むより可哀想だなって思う。」




と。


ああ、じゃあ私可哀想だなって思われてるんだねと心の中で思ったのを今でも覚えている。








しかし、そんな根暗な私でも、すぐに軽口をたたきあう仲までいきついた。






始めの数週間で、なんとなく佐藤くんのことがわかってきた。




とにかく物怖じせず何でも思ったことをできるタイプだ。


仕事はできるし早いけど、あまり協調性は重んじないので、好き嫌いのわかれるタイプの人間なのだろうなとぼんやり思っていた。



ただ、引っ込み思案な私としては、いつだって堂々としている彼を羨ましく思っていた。

夏になるたびまた一つ

約5年お付き合いした方とお別れをしたのが、27の夏のことだった。




例によって合わせに合わせた恋愛をしていた。辟易しているところもあったが、長く一緒にいたので、このまま結婚かと思っていたが踏み切れない自分もいた。


かといって別れる理由もなくダラダラ続けていた私にとって、彼の浮気が発覚したのは正直なところ有り難かった。


長年の付き合いをものともせず、さっくりきっぱり終わりを告げ、その選択を後悔することは一度もなかった。





その一ヶ月後には、次の彼と遊んだりなんだりが始まっていた。そしていつの間にか付き合っていた。らしい。


なんだかよくわからない付き合いだったが、作り物でない付き合いは楽だった。


ただ、楽なのはそこまで興味も欲も彼にないからだと気付いてしまい、もう止めようと行動したのが28の夏のことだった。





こう考えると、毎年夏に近づくたびに一つ恋が終わっている。29の初夏に終わった恋の相手と知り合ったのは、一年前の4月のことだった。

わたし

正直に言おう。


わたしはモテる方だと思う。思っている。


少なくとも、モテないとか好かれないとか、そういったことで思い悩んだことはなかった。



いつもなんとなく、それなりの人に好かれ絶えたことはなかったから。






ある一定数の人種が好きとする容姿だという自覚があるし、それをどのように使うのが有効か知っている。


そういった人種の方が求めるものがなにかも経験からすっかり学んできた。



自信をもってお送りするその

わたし

は、




なのでモテるんだと思う。







ただ、当たり前だがそれはもはや私ではない。






私がプロデュースした、私という素材を使った誰かでしかない。






それでもいいと思っていた。


だって、それって好かれる努力でしょ。





そうして、

それ

をすきになってくれた人の望むように一生懸命頑張って合わせていくことが、望むままにしてあげることが愛なんだと思っていた。






本来、恐ろしいほどに根暗で人見知りで社交的の反対側にいるような私は、自分から働きかけることが大の苦手だ。





だから来るものを拒まず受け入れて、それで恋愛したつもりになっていたのかもしれない。





本当の根暗で人見知りで社交的の反対側にいるような私で勝負して、傷付くのも怖かった。






だかしかし、そんな私がいくら取り繕おうが、ガタがくるのは当然のことで。







わたしを好きになる人も、

それに合わせた愛をあげるのも、




すっかり嫌になってしまった。









ただ、そうしたときに、本当の私での恋愛の仕方を私はまるで知らなかった。






もう気付けば29になるというのに。