29歳現役おひとり様。

29年間のあれやこれや

幸せなのよ、本当よ。

すごく、好きだ。




面倒臭いところはたくさんあって、正直合わない価値観も見えてはいるけど、それでも居心地は良いし合わせていきたいとも思える。





いつかなくなるのが怖いくらい、今、幸せなんだって思う。思っている。












それなのに。










すごくタイミングが良かった。







たまたま私は休みだったから、出勤の後藤くんと一緒に彼の家を出て、我が家に戻った。





朝ご飯を食べてゆったりしていると、佐藤くんからのライン。









ちえちゃん、今暇?






ひまだよー







いっていい?
















佐藤くんがうちにくるときは、大抵宿代わりだったので、昼間からなんてどうしたんだろうと思いながら、ちょうど時間も空いていたので了承した。












もう、チャイムもなしにはいってきて勝手にくつろぐような間柄。








今日はどうしたのかと聞くと、予定がなかったのと、深夜1時の便で海外に発つからお土産のこと聞こうと思ってたから、会った方がはやいなと。








この男は、本当に女子の心理をうまくついてくる。





暇なときにも、お土産の相手にも、自分が浮かぶというのがとても嬉しいなと思ってしまった。







しばらくソファでごろごろしていたが、ベッドにいくことにした。







「自分のお布団久しぶりだなー」




「なに、また遊び歩いてたの?」





「違うよ、…彼氏、できたの」





「えーおめでとう!前言ってた職場の人?」





「うん、そう」







前に家にきたときに、後藤くんの話はしていた。





祝福しながらも、やることはやる。



ああ、彼氏いる人ととかそういうの好きなんだっけなとぼんやり一年前のことを思い返していた。







「ねえ、うそでもいいから好きって言ってよ」






恋人のように、何度もキスをしたり、ぎゅっとくっついたりしながら佐藤くんはいつものいたずらっ子みたいな笑顔。





…自分は、嘘だって言ってくれないじゃない。まあ、言ってほしいと伝えたこともないけど。








「…好きよ、ゆうやくん」





もう、好きじゃないはずだったのに。なんだかぎゅっと胸がくるしくなった。




これが本当に嘘だったらもっとすんなり、何度も言えるのに。


中途半端な真実が伝わらないように、嘘に聞こえるように伝えるのはとても難しい。









「ねー今きたら俺ぶん殴られるよね」





「こないよ、仕事だもん。そもそも来たことないし」




「でも家は知ってるでしょ。もうここで会うのは危険かなー。あ、ちゃんとラインのトーク消してる?」





「消してないよ、携帯見ないもん」





「いやいや、もしものためにね。ちえちゃんとは長く続けたいからさーバレちゃだめだよ」







なんだか思わず笑ってしまった。


長くって、いつまでなんだろう。終わると思っていたのに、結局切れないな。



良くないことなんだろうけど、佐藤くんといるとその実感がわかない。








「でも悔しいな、そのうち俺との回数なんてすぐ越されちゃうんだろうな」







お土産楽しみにしていてねと、佐藤くんは夕方帰っていった。









ちえちゃんには幸せになってほしいけど、やっぱり定期的に会いたいし結婚しても続けたいんだと彼は言った。






なんて勝手なんだろうと思った。それと同時に、やっぱり私はこの人の特別にはしてもらえないんだなと悟った。




いや、ある意味でいうと特別なんだろうけど。




私のほしい特別はそんなんじゃない。















私だって、この幸せを壊したくなんかない。




それなのに、なんでこの後に及んでこんなことばかり考えているんだろうか。

その後の話。

それからなんとなく普通に話して、



またご飯に行ったり泊まりに行ったりを、さらに頻度を上げながら続けていた。





これってなんなのかなと、思いながらもなにもできずにいた。




出かけたいねといわれ、映画にいった。


手を繋ぎながらあるいて、17時から別の予定だった私にその後くる?と誘いをくれて。



これで付き合ってなかったらなんなのよ状態で、横浜デートをした。




買い物したり、ご飯を食べたり、ゲームセンターで遊んだりしながら夜のメインの花火まで時間を過ごしていた。







ねえ、言うなら今日でしょ。







そんな思いを抱えていたが、なにもないまま帰宅の電車にのる。






このまま後藤くんの家にいくので、帰ったら絶対聞こうと心の中で誓った。








自分の決心のせいか、家路の途中は沈黙が続いた。ああ、私本当にきけるのだろうか。





ぐるぐると悩んでいるうちに到着し、ソファでいつものようにぎゅっとくっついてくつろぐ。






何回か唇を重ねたあとに、後藤くんがじっとみつめてきた。






「どうしたの?」





「あのさ、改めて言うのも照れるんだけど」






「なに?」






「すき」






本当に照れくさくて、言葉がでず、でも嬉しくて、にやつく顔を隠すように後藤くんの胸に顔をうずめた。






「順番違っちゃったけど、付き合って」






この一言だけで、ああなんて真面目な人なんだろうと、また感じた。




当たり前の一言かもしれないけれど、私にとっては特別だった。







「うん」







そしてようやくお付き合いが始まった。







呼び方がかわったくらいで、関係に大きな変化はないが、そこからは半同棲状態で、あちらの家にいた。






元々、一人が好きで結婚なんてできないと思っていた私にとって、それはとてもすごいことだった。





ずっと一緒にいられる人なんだなと思ったし、それが幸せなんだと、この歳にして理解した気がした。







同じ出張にいくときに、駅まで手を繋いで歩く朝は、なんて幸せなんだろうと思ったし、



憧れていたような、いわゆる普通の恋愛や普通の幸せがそこにあるんだと思った。

そんなことをしていたら

やってしまった。






私の対応は、どうやら誠実さに欠いていたようで、






進展どころかなんだか後退したような展開になってしまぅた。










わたしは、



後藤くんの気持ちをちゃんといってほしいのになともやついたけど、





きっとあちらも、





私の意思表示がほしかったのだろう。









それにうまく答えられなかった。









そして、





そんなタイミングで佐藤くんから連絡がきた。







そして、3ヶ月ぶりにうちにきた。










なんだかんだ、一年の仲だもの。





あー楽だなあと思った。






でも、



ちゃんと、恋は終わっていたようだ。




特別になりたいなんて、




好きになってほしいなんて、









どうしようもなくぎゅっとする思いはもうなくなっていた。








朝起きて、またねといって彼は出ていく。








またねがいつかわからないけど、もし私に恋人ができたときには、これが最後になるんだろうなとぼんやりと考えた。







長くはない睡眠だし、大きい体の佐藤くんに占領されたせまい布団だったけど、目覚めはすっきりしていた。









ちょっといつもより早めだけど、そのまま家を出た。





すると、なんと後藤くんに遭遇。










信号待ちで、話しかけずにはいられない距離。









意を決して話しかける私。








何事もなかったかのように当たり障りないことを話しながら、とても気まずかった。