29歳現役おひとり様。

29年間のあれやこれや

彼氏。

七月の半ば。



試験が終わるまでは、期末処理より勉強優先とお達しがあったので、それに甘えていた。


なのでどこから手を付けて良いか悩むほどの仕事量だった。




コツコツやっていけば間に合うが、私はそれが苦手である。



一つの山を今日で越えてしまおうと、勇んでパソコンに向かった。



21時を過ぎた頃、残っているのは近くの席の4人だけになっていた。




「ちえちゃんと佐藤くんはどれくらいやってくのー?」





佐藤くんの影響と、母の知り合い(似たような職種なので)がいるのとで、私を下の名前で呼んでくれる方がとても多かった。




それこそ、親子ほど歳の離れた人もいたが、母のように、友のように、親身になってくれるこの職場の人たちが私は大好きだった。






「うーん、終わるまで…佐藤くんはどうなの」




「えーちえちゃんがやってくなら俺もやってく。が、空腹でどうにもならん」





「そうだよねー。買い行く?」






「おう。てわけでいきます。お二人はまだいるかんじですか」







「私たちはもう帰るよー。頑張ってね」









とうわけで、近くのコンビニで買い出して、つまみながら仕事をしていた。





あと1時間ほどで日付が変わる時間になり、先に終えたのは佐藤くんだった。





「え、やだ絶対先に帰らないでよ!」




「はやくしろよ」





「トイレ一緒にいってあげたじゃん、まっててよ」






「それはまじでありがとうしかない」






大きい身なりのわりに、彼はとても怖がりだった。



自分の机上を片した佐藤くんが、私の隣に移動してきた。



無視して作業を続ける。




「ねーちえちゃんあれどーする?」




「なに?」




「砂金。いつにする?」




「せっかくなら土日ずらしたいよねえ」





「夏の動静だした?」





「あーそこにあるからちょっと見てて」







話しながら、私の髪の先をいじる佐藤くん。

その指の背が、そっと半袖の二の腕を軽く触れるたびに、反応する体をぐっとこらえていた。






「あーじゃあこの日は?」






提案されたのは、7月最後の日月。






「いいよー予定入れとくね。」






ちょうど仕事の方も終わったので、戸締りをして帰宅することに。





各部屋の戸締りを点検し、扉を閉めた。思ったよりすぐ後ろにいた佐藤くんにぶつかる。退がる気配のない佐藤くんと密着したまま施錠していた。



ふいに、佐藤くんの大きな掌が私の胸を掴んだ。掴めるほどないけど。



ふり返り、軽く睨む。イタズラをする子どものような顔の佐藤くんに、抗議の意味を込めてぺしんとその手を叩いた。




そして、何事もなかったかのようにすっと離れて帰り支度を整え、職場を後にする。





お互い自転車なので、そのままそれぞれの帰路へとついた。








その翌日、久々に彼氏と会った。5月の末から会っていなかった。

仕事の忙しさと、元々のお互いのドライさから、その間の連絡といえば、6月の私の誕生日おめでとうLINEくらいだった。




彼といるのは好きだった。


なんとなく、成り行きのような付き合いだったけど、それでもきちんと恋になったと思っていた。他人からしたらありえない連絡の頻度も、それで私は満足していた。




でも。





小さな、違和感。


彼に対してではない。自分の感情の話だ。




楽しくないわけではない。ないのだけれども。






久しぶりに会ったというのに、




嬉しいなとか、

もっといたいなとか、



やっぱり好きだなとか。






なんというか、そういった特別な感情はなに一つ湧いてこなかった。






その間に送られてくる、佐藤くんからのくだらないスタンプの方が余程気になり、そわそわしていた。







それでも私は、お付き合いしていた彼への気持ちの変化を、佐藤くんのせいだとは思わなかった。






その時は。








結局、モヤモヤを拭うことができず、別れを告げることにした。




佐藤くんとの旅行の、一週間ほど前の出来事だった。