夏がくる
全てが終わり酔いも何もかも覚めた私が、どんな顔してこれから仕事したらいいのかわかんないよ、と不満をもらすと、佐藤くんはさらりと
「別にいつも通りしてればいいじゃん」
と、事も無げに言った。
言われた通り、と言うと何だか癪だが、実際、その言葉通りに私たちは今まで通りだった。
職場では仲良しで、でもプライベートで会うわけでもなく、たまに連絡するくらいのそんな間柄。
飲みに行こうかと話はしていたが、なんとなく実現しないでいた。
そんなこんなで季節は夏、7月になっていた。
月初にとある試験があったり、月末に仕事の締日があったりでいそがしくしていた。ただ、それが終わると長い夏期休暇なので平日も遅くまで、休日も出勤して頑張っていた。
そんな深夜、佐藤くんから電話がきた。出てみると、試験に必要な書類の話だった。見当たらないと。
結局、ものの数分で見つかったのでそこからは夏期休暇の話をしていた。
仲の良い数人がいるので、遠出をしたいねと。テレビ電話しながら、パソコンでさくさくプレゼン資料を作成してゆく彼。
私は根暗で友だちがそもそもいなく、特に知り合う男性とはすぐに不埒な関係になってしまうので、男友達は皆無だった。
だから、あんなことになっても、いわゆる大人の関係が始まるでもなく、変わらない佐藤くんとのやりとりは新鮮でとても楽しかった。
何かあると気軽に電話してきたり、くだらない話で盛り上がったり。
気を使わずにいられることの居心地の良さを感じていた。
結局その日は2時間近く話をし、夏期休暇の計画プレゼン資料が完成し電話は幕を閉じた。
幾つかの候補があったが、そのか中で佐藤くんの挙げたある島へのツアーが私はとても心惹かれていた。
なんでも、気軽に砂金取り体験ができると。
翌日、仲間内でプレゼンするも、全員の予定があわず撃沈。秋の連休にでもということでひとまず流れた。
後日、佐藤くんからラインが届く。
『ねーちえちゃん!砂金取りたくない?』
とりたい!
『じゃあ、いく?』
いこ!
という、なんともさらりと決行の流れとなった。
が、私は内心動揺していた。
え、2人でってことだよね?
泊まりだよね?
遊びどころか飲みにすら2人でいったことないのに、旅行?
何度も言うが私は根暗の人見知りだ。
佐藤くんの人との付き合い方に脱帽しつつも、旅行に行くすら苦ではないと感じている自分にも驚いていた。
実は電話すら苦手で、今までお付き合いしていた方々からの着信さえ見送ってきたくらいだった。
それほどにまで、佐藤くんの存在はさらりと私の中に溶けていった。
私はそれを友愛だと信じていたし、これを友情だと信じていたかった。
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