そして、はじまり。
さて、そんなある日事件がおこる。
四月の末に講演会があり、職場のみんなで出席した。
いつもの定時よりも前に終了し、その後勤務をとかれたので近くにいた数人で軽くのんで帰る事にした。
この職場で初めての飲み会(会と言えるほど人数はいないが)だった。
性別も経験もバラバラの、今年来たばかりの人たちだったが、旧知の仲のようにお喋りする人たちを尊敬の眼差しで見ながら、私は聞き役に徹していた。
その中には、佐藤くんもいた。
明日も仕事のわりに、飲み進めていたと思う。
ほかの人がトイレに立ち、2人になった瞬間。私をじっと見ていた佐藤くんが、
「ちえちゃんて、口だけなんかすごくかわいいよね」
と突然宣った。
だけって失礼な、なんてやりとりをその場ではしながら、その瞳に少しドキドキしながらそのあとの会話もこなしていた。
帰り道。
私と佐藤くんは同じバスに乗り同じ方向に帰る。
佐藤くんは大きい。
私とは、35cmと50kgの差がある。
なので、2人がけの席は窮屈そうで、1.5人分くらいの幅で座っていた。
近いな、と思ったがそんなわけで仕方ないなと思っていたが。
しかし。
ふと、手が重なった。触れたのではなく、重なった。
あー、やばい。
さり気なく避けてみると、その手は今度は私の太腿に移動した。
正直、所謂男女の関係になるのがわたしはとてもはやい。
それはもう周りがドン引きするほどに、男性を誘っているそうで。
ただ、それはプライベートの話であり、職場でそういった不祥事を起こしたことは一度もないし、今回だってちゃんと仕事モードしていた。
なのに、どうして、どうしよう。
ちらりと佐藤くんの顔を覗くと、目が合った。
「かわいいのが悪い。」
ぼそりと呟き、一瞬、周りを確認したかと思うと佐藤くんの顔が近づいてきた。
いやここバスだよ
なんて考える暇もなく、唇と唇が軽く触れた。
間抜けな顔をしていたと思う。
なんだかよくわからないまま、
「もう一回しよ」
と、2回目のそれにも応じた。
いや、正確に言えば応じたわけではない。
なんて答えたらいいのか、考えている間に終わっていた。
そしてはっと我に返り、自分の降りる停留所が通り過ぎていることに気がつく。
2、3言文句のようななにかを言って、バタバタと降車した。
家まで帰る間は、明日からどんな顔して過ごしたらいいんだろうと、そんなことばかりを考えていた。
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