幸せなのよ、本当よ。
すごく、好きだ。
面倒臭いところはたくさんあって、正直合わない価値観も見えてはいるけど、それでも居心地は良いし合わせていきたいとも思える。
いつかなくなるのが怖いくらい、今、幸せなんだって思う。思っている。
それなのに。
すごくタイミングが良かった。
たまたま私は休みだったから、出勤の後藤くんと一緒に彼の家を出て、我が家に戻った。
朝ご飯を食べてゆったりしていると、佐藤くんからのライン。
ちえちゃん、今暇?
ひまだよー
いっていい?
佐藤くんがうちにくるときは、大抵宿代わりだったので、昼間からなんてどうしたんだろうと思いながら、ちょうど時間も空いていたので了承した。
もう、チャイムもなしにはいってきて勝手にくつろぐような間柄。
今日はどうしたのかと聞くと、予定がなかったのと、深夜1時の便で海外に発つからお土産のこと聞こうと思ってたから、会った方がはやいなと。
この男は、本当に女子の心理をうまくついてくる。
暇なときにも、お土産の相手にも、自分が浮かぶというのがとても嬉しいなと思ってしまった。
しばらくソファでごろごろしていたが、ベッドにいくことにした。
「自分のお布団久しぶりだなー」
「なに、また遊び歩いてたの?」
「違うよ、…彼氏、できたの」
「えーおめでとう!前言ってた職場の人?」
「うん、そう」
前に家にきたときに、後藤くんの話はしていた。
祝福しながらも、やることはやる。
ああ、彼氏いる人ととかそういうの好きなんだっけなとぼんやり一年前のことを思い返していた。
「ねえ、うそでもいいから好きって言ってよ」
恋人のように、何度もキスをしたり、ぎゅっとくっついたりしながら佐藤くんはいつものいたずらっ子みたいな笑顔。
…自分は、嘘だって言ってくれないじゃない。まあ、言ってほしいと伝えたこともないけど。
「…好きよ、ゆうやくん」
もう、好きじゃないはずだったのに。なんだかぎゅっと胸がくるしくなった。
これが本当に嘘だったらもっとすんなり、何度も言えるのに。
中途半端な真実が伝わらないように、嘘に聞こえるように伝えるのはとても難しい。
「ねー今きたら俺ぶん殴られるよね」
「こないよ、仕事だもん。そもそも来たことないし」
「でも家は知ってるでしょ。もうここで会うのは危険かなー。あ、ちゃんとラインのトーク消してる?」
「消してないよ、携帯見ないもん」
「いやいや、もしものためにね。ちえちゃんとは長く続けたいからさーバレちゃだめだよ」
なんだか思わず笑ってしまった。
長くって、いつまでなんだろう。終わると思っていたのに、結局切れないな。
良くないことなんだろうけど、佐藤くんといるとその実感がわかない。
「でも悔しいな、そのうち俺との回数なんてすぐ越されちゃうんだろうな」
お土産楽しみにしていてねと、佐藤くんは夕方帰っていった。
ちえちゃんには幸せになってほしいけど、やっぱり定期的に会いたいし結婚しても続けたいんだと彼は言った。
なんて勝手なんだろうと思った。それと同時に、やっぱり私はこの人の特別にはしてもらえないんだなと悟った。
いや、ある意味でいうと特別なんだろうけど。
私のほしい特別はそんなんじゃない。
私だって、この幸せを壊したくなんかない。
それなのに、なんでこの後に及んでこんなことばかり考えているんだろうか。
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